
国内の造船・舶用工業で、大規模な設備投資が進んでいます。
国土交通省は2026年8月、アンモニアや水素などを燃料とするゼロエミッション船等の建造促進事業で新たに4件を採択しました。これまでの採択分と合わせた生産設備投資は、累計約2,050億円超にのぼります。
投資の対象は造船所のドックやクレーンだけではありません。エンジン、燃料タンク、燃料供給システム、配管、電装品など、船を構成する機器の生産能力増強にも広がっています。
そのため、造船会社と直接取引していない切削・板金・製缶・溶接・表面処理などの加工会社にも、新たな受注機会が生まれる可能性があります。
本記事では、なぜ今造船分野への投資が拡大しているのか、どのような設備・部品需要が考えられるのか、自社の技術を新規受注につなげるために何を調べるべきかを解説します。
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1.造船・舶用工業で設備投資が進む背景
1-1.ゼロエミッション船とは
ゼロエミッション船とは、運航時の温室効果ガス排出を大幅に削減する次世代船舶です。アンモニアや水素などを燃料とするエンジンや、燃料電池を利用する船舶などが開発されています。
従来の重油とは燃料の性質が異なるため、単にエンジンを載せ替えるだけでは対応できません。新しい燃料に対応したエンジン、燃料タンク、燃料供給システム、安全設備、配管・艤装設備などを整える必要があります。

出典:日本船舶技術研究協会 https://www.jstra.jp/information/PDF/roadmap_outline.pdf
1-2.累計約2,050億円超の生産設備投資
国土交通省は2026年8月17日、ゼロエミッション船等の建造促進事業で新たに4件を採択しました。今回の4件を過年度の採択事業に加えると、国内の造船・舶用工業界で行われる生産設備投資は累計約2,050億円超となります。
ここで注意したいのは、2,050億円が今回採択された4件だけの金額ではないことです。造船所と舶用機器メーカーが計画する複数年度・複数案件の累計であり、業界全体で供給能力を段階的に引き上げる動きと捉える必要があります。
支援対象には、エンジン、燃料タンク、燃料供給システム等の生産設備に加え、それらを船へ搭載するためのクレーンなどの艤装設備が含まれます。

出典:国土交通省報道発表資料「次世代船舶の世界トップシェア獲得に向け、さらなる設備投資を促進」 https://www.mlit.go.jp/report/press/content/002016892.pdf
1-3.2035年の建造能力は現在の2倍が目標
国土交通省と内閣府が策定した「造船業再生ロードマップ」では、国内の年間船舶建造量を現在の約900万総トンから、2035年に1,800万総トンへ引き上げる目標が示されています。
目標は建造能力の倍増であり、設備の更新・増強だけでなく、人材確保、脱炭素技術、安定需要の確保などを一体で進める方針です。

出典:国土交通省「造船業再生ロードマップ」 https://www.mlit.go.jp/report/press/kaiji05_hh_000317.html
2.設備投資によって増える生産・調達領域
2-1.大型エンジンと燃料供給機器

アンモニアや水素は、従来燃料とは着火性や安全管理の条件が異なります。このため、エンジン本体に加え、燃料噴射弁、燃料噴射ポンプ、バルブ、継手、配管、ポンプ、熱交換器、監視・制御機器などの周辺領域にも技術対応が必要です。
例えば、過年度の採択事業には、アンモニア燃料エンジンの生産工場や試運転設備、アンモニア・水素燃料エンジン用の燃料噴射弁・燃料噴射ポンプの製造設備が含まれています。これは、需要が完成品メーカーだけで閉じるのではなく、精密部品や周辺ユニットのサプライチェーンへ波及し得ることを示しています。
2-2.燃料タンクと配管・艤装設備

新燃料を船内で安全に貯蔵・供給するには、燃料タンク、配管、支持金具、架台、防熱構造などが必要です。過年度の採択事業では、燃料タンク工場、プレス設備、パイプ製作・塗装工場、タンク回転台などへの投資も確認できます。
燃料の種類や船級規則によって要求仕様は異なりますが、大型鋼構造物の製缶・溶接から、配管部品、ブラケット、カバー類まで、部品の大きさと加工方法は幅広くなります。
2-3.造船所の建造・搭載能力を支える設備

船舶へ大型機器を搭載する艤装工程では、クレーン、桟橋、ドック、作業用プラットフォームなどの能力増強が進みます。設備メーカーの装置部品や保全品、治具、架台、安全カバーなども含めると、投資の波及先は舶用機器そのものに限りません。
したがって、自社の営業先を考える際は、造船会社だけでなく、舶用機器メーカー、装置メーカー、工事会社、一次・二次サプライヤーまで視野を広げることが重要です。
3.加工会社が考えられる具体的な受注接点
造船分野は「船を一式でつくれる会社」だけの市場ではありません。自社の設備・品質管理・得意材質を、対象部品と結び付けて考えることで、参入可能性を具体化できます。
| 加工分野 | 想定される部品・用途 | 営業時に確認したい条件 |
| 切削加工 | 軸物、フランジ、継手、バルブ部品、ポンプ部品、噴射系部品 | 材質、寸法公差、耐圧・気密、ロット、トレーサビリティ |
| 板金・プレス | カバー、ダクト、支持金具、ブラケット、制御盤筐体 | 板厚、材質、耐食性、溶接・組立の有無 |
| 製缶・溶接 | タンク周辺構造、架台、配管ユニット、プラットフォーム、治具 | 大型対応、溶接資格、非破壊検査、現地工事 |
| 表面処理・塗装 | 配管、構造部材、機器部品の防食・耐海水処理 | 塗膜仕様、耐食試験、サイズ、前処理、品質記録 |
| 樹脂・ゴム加工 | シール、パッキン、絶縁部品、ホース・保護部材 | 燃料適合性、耐熱・耐薬品性、認証、交換周期 |
ただし、上表は公開情報から考えられる一般的な接点です。実際の受注には、船級規則、材質証明、溶接施工法、検査記録など、案件ごとの要求事項を確認しなければなりません。
「造船向けであること」だけを営業理由にせず、自社が満たせる加工条件と品質保証の範囲を明確にすることが、ミスマッチを減らすポイントです。

4.造船分野への新規開拓を進める方法
4-1.設備投資情報から企業と時期を特定する
まず確認したいのは、誰が、どこで、何の設備を、いつまでに整備するのかです。補助事業の採択一覧、企業のニュースリリース、中期経営計画、工場増設情報などを照合すると、発注が起こり得る領域と時期を絞りやすくなります。
例えば「燃料タンクの生産能力増強」であれば、タンク本体だけでなく、プレス、溶接、回転台、搬送、検査、防熱施工など、必要な工程を分解して関連企業を探します。
4-2.自社技術を部品・工程の言葉に置き換える
「高品質な切削加工ができます」と伝えるだけでは、発注側は自社案件との適合性を判断しにくいものです。対応材質、加工サイズ、公差、月産数量、検査設備、類似用途の実績などを整理し、対象となる部品や工程に合わせて伝える必要があります。
造船分野での実績がない場合も、圧力機器、産業装置、エネルギー設備などで近い要求に対応した経験があれば、共通点を整理して提示できます。ただし、未取得の認証や未経験の仕様まで対応可能と断定しないことが重要です。
4-3.造船会社以外の発注経路も調べる
船舶のサプライチェーンでは、設計、機器製造、装置組立、配管工事、艤装、保守などを複数企業が担います。造船会社だけに対象を限定すると、自社の加工領域に近い発注元を見落とすことがあります。
設備投資の主体を起点に、納入機器、共同開発企業、工場所在地、既存サプライヤーをたどり、自社が直接提案しやすい階層の企業を見つけることが現実的です。
まとめ
国内の造船・舶用工業では、ゼロエミッション船の供給基盤整備を中心に、累計約2,050億円超の生産設備投資が進んでいます。さらに、2035年には年間建造能力を現在の約2倍に引き上げる目標が掲げられています。
需要はエンジンや燃料タンクだけでなく、燃料供給機器、配管、電装、艤装設備、製造装置や保全品へ広がる可能性があります。切削、板金、製缶・溶接、表面処理などの加工会社は、自社の得意条件と対象部品を結び付けることで、新規開拓先を具体化できます。
一方、市場が成長していても、すべての加工会社にそのまま受注機会が届くわけではありません。投資主体、発注経路、要求品質、案件時期を調べ、自社と合う企業へ継続的に提案することが必要です。
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