
北京で2026年8月に開催された「第2回世界人型ロボット運動会」。
2025年の第1回は16カ国・280チーム、500台超のロボットが参加しましたが、2026年には16カ国・666チーム、2,056台へ拡大。競技数も26種目から51種目へ増えました。参加チーム数は前年比138%増、ロボット数は約4倍です。
注目すべきなのは、単に参加台数が増えたことだけではありません。
2026年大会では、工場、ホテル、モデルハウスなどの実環境を想定した作業競技が拡充され、ロボットに求められる能力も「走る・跳ぶ」から「実際に仕事をする」方向へ変化しています。
人型ロボットは、研究開発やデモンストレーションの段階から、量産・社会実装へ移りつつあります。そしてロボットが数千台、数万台単位で生産されるようになれば、その「体」を構成する、減速機、アクチュエータ、ボールねじ、軸受、センサー、関節部品、フレーム、筐体などにも大きな需要が生まれます。
本記事では、世界人型ロボット運動会で見えた技術進化を入り口に、人型ロボット産業の現在地と、加工会社に広がる部品需要について解説します。
index
1.世界人型ロボット運動会とは

出典:東京新聞 https://www.tokyo-np.co.jp/article/510382
1-1.世界人型ロボット運動会の概要
世界人型ロボット運動会は、人型ロボットがスポーツ競技や実際の仕事を想定した作業で性能を競う国際大会です。
第1回は2025年8月、北京冬季五輪でも使用された国家速滑館「アイスリボン」で開催されました。
競技内容は、
- 100m・400m・1500mなどの陸上競技
- 走幅跳
- サッカー
- 格闘競技
- 資材搬送
- 物品の仕分け
- 清掃
など多岐にわたります。
一般的なロボット展示会との大きな違いは、完成した製品を展示するだけではなく、同じ条件で実際にロボットを動かし、性能を比較することです。
走行速度だけでなく、
「転倒せず移動できるか」「周囲を認識できるか」「物を正確につかめるか」「作業を最後まで遂行できるか」
といった、社会実装に必要な能力を確認する場にもなっています。
1-2.2025年・2026年大会の規模比較
第1回から第2回までの変化を比較すると、産業の拡大スピードが分かります。
| 2025年 | 2026年 | |
| 参加国・地域 | 16 | 16 |
| チーム数 | 280 | 666 |
| ロボット数 | 500台超 | 2056台 |
| 競技種目 | 26 | 51 |
| 競技数 | 487 | 1301 |
2026年大会のチーム数は前年から138%増加し、参加ロボット数は約4倍となりました。
単にイベントの知名度が高まっただけではなく、ロボットメーカー、大学、研究機関など、人型ロボットを開発するプレイヤーそのものが急速に増えていることがうかがえます。
1-3.競技記録の変化
ロボットそのものの性能も、1年間で大きく進化しました。
2026年大会の100m大型ロボット決勝では、8.64秒を記録。
400mでは2025年大会の1分28秒03から38秒15へ、1500mでは6分34秒40から2分21秒64へと記録が短縮されました。
ただし、ここで重要なのは「人間より速くなった」という話だけではありません。
同じ種類のロボット競技を1年後に実施すると、これほど大幅に性能が改善していることがポイントです。
モーターや減速機などのハードウェアだけでなく、姿勢制御、AI、センサー、学習技術などが組み合わさることで、ロボット全体の性能が短期間で向上しています。
1-4.競技種目と実用シーンの拡大
2026年大会では、スポーツ種目に加えて21の実環境型競技が用意されました。
工場、ホテル、家庭、物流施設などを使い、
- 工業製品の組立
- 荷物の運搬
- ホテル客室の整理
- タオルなどの補充
- ベッドメイク
- 救助作業
- 書籍の仕分け
といった仕事が競技になっています。
さらに、器用な手の性能を評価する競技では、工具の組立、ピンセットで豆をつかむ作業、柔軟なケーブルの接続など、高精度な操作も求められました。
つまり、世界人型ロボット運動会の評価対象は、
「走れるロボット」から「現場で作業できるロボット」へ
広がっています。
2.人型ロボット市場と量産動向

出典:AI情報WEBマガジン「ロボスタ」 https://robotstart.info/article/2025/11/13/381421.html
2-1.世界のヒューマノイドロボット出荷台数
人型ロボットは、研究開発や実証を中心とした段階から、徐々に量産へ移り始めています。
矢野経済研究所によると、世界のヒューマノイドロボット出荷台数は、2025年に1万6,580台となり、前年から647.9%増加したと推計されています。
さらに2026年には、前年比492.7%増となる8万1,690台まで拡大する見込みです。中国企業による量産・海外展開に加え、米国を中心としたメーカーの量産開始などが市場拡大を後押しするとみられています。

そして同研究所では、2035年の世界出荷台数を718万台と予測しています。2025年から2035年までの年平均成長率(CAGR)は83.5%に達する見通しです。
もちろん、2035年の718万台は将来予測であり、実際の普及速度は技術開発や価格、導入効果などによって変わります。それでも、年間数千台規模だった市場が、数万台、さらに数百万台規模へ拡大する可能性があるという点は、人型ロボットを構成する部品メーカーや加工会社にとっても重要な動きです。ロボットの生産台数が増えれば、減速機やアクチュエータ、軸受、ボールねじ、関節部品など、1台ごとに必要となる構成部品の需要も連動して増えていく可能性があります。
ただし、出荷台数が増えているからといって、すでに人型ロボットが工場や物流現場へ大量導入されているわけではありません。
では、現在どのような用途で人型ロボットが使われているのでしょうか。
2-2.人型ロボットの導入状況
ただし、「すでに人型ロボットが大量に工場で働いている」と考えるのは早計です。
IDCによると、2025年に出荷された人型ロボットの85%超は、パフォーマンス、教育、データ収集、案内などの用途で使われており、製造・物流分野はまだ試験導入が始まった段階です。
現在は、
技術的に動かせるかを確かめる段階から、実際の仕事で投資効果を出せるかを確かめる段階へ移っている
と考えた方が実態に近いでしょう。
製造現場では、搬送、ピッキング、パレタイジング、機械へのワーク投入など、比較的作業条件を限定しやすい工程から実証が進んでいます。
2-3.人型ロボットを支える主要技術
人型ロボットが工場や物流現場で働くためには、AIだけでは不十分です。
大きく分けると、
「考える技術」と「動く技術」
の両方が必要になります。
「考える」側では、カメラやセンサーから情報を取得し、状況を判断して動作につなげるAIが重要です。
特に、画像や言語とロボットの動作を結びつけるVLA(Vision-Language-Action)モデルなどの技術開発が進んでいます。
一方、「動く」側では、
- 高トルクなアクチュエータ
- 小型・高精度な減速機
- 軸受
- ボールねじ
- センサー
- 軽量な構造部品
- 高性能なロボットハンド
- バッテリー
などが必要です。

AIの進化だけでなく、それを実際の動きに変える精密機械部品の性能が、人型ロボットの実用化を左右します。
2-4.実用化に向けた課題
人型ロボットには、まだ多くの課題があります。
例えば、
- 長時間連続で稼働できるか
- 不整地や段差でも安定して動けるか
- 人間の手のように細かな作業ができるか
- 同じ作業を何度繰り返しても失敗しないか
- 故障頻度を下げられるか
- 製造コストを下げられるか
といった問題です。
富士経済も、量産化・低価格化やサプライチェーン、保守網の整備が進まない場合、2035年の市場規模が1兆円程度にとどまる可能性を示しています。
したがって、人型ロボット市場は大きな成長が期待される一方、将来需要が確定している市場ではないことにも注意が必要です。
3.人型ロボットを構成する部品加工需要

3-1.人型ロボットの主な構成部品
人間が肩、肘、手首、股関節、膝、足首など多数の関節を使って動くように、人型ロボットも全身に多数の駆動部を持っています。
それぞれの関節には、
- サーボモーター
- 減速機
- ボールねじ・ローラーねじ
- 軸受
- エンコーダー
- 力覚・トルクセンサー
- アクチュエータ
- シャフト
- 関節ハウジング
などが組み込まれます。
さらに、
- 骨格・フレーム
- 外装カバー
- ロボットハンド
- バッテリー
- 電子基板
- 配線
など、多数の部品によって1体のロボットが構成されています。
中でも、関節を動かすアクチュエータ周辺は、ロボットの力、速度、精度、重量、価格を左右する重要部品です。

3-2.日本企業が強みを持つ部品分野
人型ロボットでは、TeslaやFigure、Unitreeなど米国・中国の完成品メーカーが注目されがちです。
しかし、その内部を見ると、精密減速機、軸受、ボールねじ、モーター、力覚センサー、アクチュエータなど、日本企業が長年培ってきた精密機械技術と重なる部品が数多くあります。
実際、日本の部品メーカー各社も人型ロボット市場を新たな成長分野として捉え、製品開発や量産供給に向けた動きを始めています。
人型ロボット関連で動き始めている主な日本企業
| 企業名 | 主な技術・製品 | 人型ロボット関連の動き | |
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ハーモニック・ドライブ・システムズ | 波動歯車減速機、超軽量・薄型精密減速機 | AIロボットを重点成長領域に設定。2025年度上期には約15社から引き合いを受け、北米スタートアップ1社向けが量産段階へ移行 |
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ナブテスコ | 精密減速機「RV」シリーズ、小型「RVmini」「Monocrank」 | 小型・協働・ヒューマノイド向けを開拓。20kg以下の小型ロボット領域で製品ラインアップを拡大 |
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NSK(日本精工) | 軸受、ボールねじ、ロータリー/リニアアクチュエータ | ヒューマノイド向けアクチュエータを開発。2028年市場投入予定。2026年には国産ヒューマノイド開発企業アトムと共同検証を開始 |
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ミネベアミツミ | ベアリング、ボールねじ、フレームレスモーター、力覚センサー | ヒューマノイドを成長分野として開拓。ロボットハンドではベアリング107個、センサー5個、アクチュエータ11個を搭載した試作例を公開 |
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THK | アクチュエータ、ボールねじ、LMガイド、直動部品 | 自社開発のヒューマノイド「FRED」で高性能アクチュエータを採用。2025年には走行速度13.8km/hを実現 |
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ニデック | 波動歯車減速機「FLEXWAVE」、モーター、センサー | 小型・軽量の精密減速機を展開。トルク・温度・角度センサーを一体化した「Smart-FLEXWAVE」などロボット関節向け技術を展開 |
ハーモニック・ドライブ・システムズは、新中期経営計画で「AIロボット」を重点開拓分野に位置づけています。さらに2025年度上期にはAIロボット向けに約15社から引き合いがあり、北米のスタートアップ1社向けについて量産段階へ移行したと公表しています。
ナブテスコも従来の産業用ロボット向け精密減速機に加え、小型・軽量な波動歯車式減速機「RVmini」と、高剛性の「Monocrank」を投入しています。同社は協働ロボットやヒューマノイドへの参入を成長策として明示しています。
NSKは、これまで培ってきた軸受・ボールねじ技術を組み合わせたロータリーアクチュエータとリニアアクチュエータを開発しています。小型・軽量化に加え、人と接触した際にも動きやすい「高バックドライバビリティ」を特徴とし、2028年の市場投入を計画しています。2026年8月には、国産ヒューマノイドを開発するアトムとの共同検証も発表しました。
中でも、部品点数の多さが分かりやすいのがミネベアミツミです。
同社はヒューマノイド向けとして、
- 薄肉・小径ベアリング
- ボールねじ
- フレームレスモーター
- 3軸・6軸力覚センサー
- 関節用トルクセンサー
などを展開しています。
2026年に公開したロボットハンドの試作例では、ハンド1台だけでベアリング107個、センサー5個、アクチュエータ11個を使用しています。
これは、人型ロボットの生産台数が増えたとき、完成品メーカーだけでなく、その内部に使われる精密部品メーカーにも需要が波及する可能性を示す分かりやすい例です。
THKも、自社開発したヒューマノイド「FRED」に、小型・高出力とバックドライブ性を両立した独自アクチュエータを採用しています。2025年には走行速度13.8km/hを記録しており、直動案内やボールねじを中心としてきた日本の機械要素メーカー自身が、ヒューマノイド開発まで踏み込み始めています。
日本の強みは「部品単体」から「モジュール」へ
こうした各社の動きを見ると、もう一つの変化が見えてきます。
以前は、
減速機だけ
ベアリングだけ
モーターだけ
という部品単位での供給が中心でした。
一方、人型ロボットでは、
モーター
+減速機
+軸受
+センサー
+制御
を組み合わせたアクチュエータや関節モジュールとして供給する動きが広がっています。
人型ロボットには、小型・軽量でありながら高出力、高精度、耐久性、安全性を同時に満たすことが求められるためです。
つまり、日本企業にとって人型ロボット市場は、単に従来部品の販売先が一つ増えるだけではなく、これまで培ってきた精密加工・機械要素技術を組み合わせ、新しいモジュール製品へ展開する市場ともいえます。
そして、大手部品メーカーがこうした製品の量産へ進めば、そのサプライチェーンには、ハウジング、シャフト、減速機部品、フレームなどを製造する加工会社も必要になります。
次に、中小加工会社と直接関係しやすい部品・加工について見ていきます。
関連記事:日経XTECH「ハーモニック、AIロボ部品の売上高5年で7倍へ 研究トップに聞く開発戦略」
関連記事:日本経済新聞「日本精工、ヒト型ロボット用の駆動装置を開発 28年投入へ」
3-3.中小加工会社に関連する部品・加工
さらにその部品メーカーのサプライチェーンをたどると、中小加工会社との接点も見えてきます。
例えば、次のような部品です。
| 加工分野 | 関連する部品例 |
| 精密切削 | 関節ハウジング、シャフト、モーターケース、減速機部品 |
| 歯車加工 | ギア、スプライン、減速機部品 |
| 研削・研磨 | シャフト、ねじ、軸受周辺部品 |
| 板金 | 外装カバー、筐体、フレーム |
| 樹脂加工 | カバー、絶縁部品、軽量部品 |
| 表面処理 | アルマイト、メッキ、各種コーティング |
人型ロボットでは、自重を小さくしながら十分な強度を持たせる必要があります。
そのため、
アルミ合金などの軽量材、薄肉部品、複雑形状、高精度加工
といった加工技術が重要になる可能性があります。
また、ロボット関節では小さな部品に荷重が集中するため、寸法精度だけでなく、表面粗さ、同軸度、耐久性なども重要になります。
3-4.量産時に求められる品質・生産体制
人型ロボット産業の拡大で注意したいのが、「試作品を作れる会社」と「量産部品を作れる会社」に求められる能力は異なるということです。
開発段階であれば、
図面をもらい、1個を短納期・高精度で作れる
ことが大きな強みになります。
しかし、生産台数が100台、1,000台、1万台と増えれば、
- 加工時間
- 自動化
- 治具設計
- 工程能力
- 不良率
- トレーサビリティ
- 安定供給
- コストダウン
まで求められます。
ロボットの販売価格を下げるには、構成部品のコストダウンも避けられません。
そのため、今後の人型ロボット市場では、高精度加工だけでなく「同じ品質で、安く、安定して量産できること」も重要な競争力になります。
4.人型ロボット市場への参入・案件獲得方法
4-1.人型ロボット関連の主な営業先
人型ロボット市場へ参入する場合、完成品メーカーだけが営業先ではありません。
例えば、
人型ロボットメーカー
↓
アクチュエータ・関節モジュールメーカー
↓
減速機・モーター・ロボットハンドメーカー
↓
精密加工・板金・表面処理などの加工会社
というサプライチェーンがあります。
そのため中小加工会社では、
- アクチュエータメーカー
- 減速機メーカー
- ロボットハンドメーカー
- モーターメーカー
- ロボット部品・モジュールメーカー
など、完成品メーカーの一つ手前・二つ手前にいる企業まで営業先として考えることが重要です。

4-2.自社の加工技術をロボット部品に置き換えて伝える
新しい市場へ営業するとき、
「アルミ加工が得意」
「高精度切削に対応」
だけでは、発注企業が具体的な用途をイメージしにくい場合があります。
例えば、
アルミ切削
→ 関節ハウジング、モーターケース、軽量構造部品
研削加工
→ シャフト、ねじ、減速機周辺部品
板金加工
→ 外装カバー、筐体、フレーム
というように、自社の加工技術を人型ロボットの具体的な部品用途へ置き換えて伝えることが重要です。
さらに人型ロボットは、まだ開発・量産立ち上げ段階の企業も多いため、完成した量産案件だけでなく、試作や開発段階から取引先候補へ接点を持つことも、新規参入の一つの方法です。
人型ロボット関連の新規取引先開拓なら「Eigyo Engine」
人型ロボット市場への参入を考えても、
- どの企業がアクチュエータを開発しているのか分からない
- 減速機やロボットハンドのメーカーを探すのに時間がかかる
- 自社の加工技術がどの企業と相性がよいのか分からない
- 新規開拓をしたいが営業リソースが足りない
といった課題があります。
営業製作所が提供する「Eigyo Engine」では、製造業の新規取引先開拓を支援しています。
企業情報や発注ニーズなどをもとに、自社の設備・加工技術・得意分野と相性のよい企業を探し、営業活動を行います。

例えば、
- ロボット関連メーカー
- アクチュエータメーカー
- 減速機メーカー
- モーター・センサーメーカー
- ロボットハンドメーカー
- 精密加工部品を必要とするメーカー
など、自社の技術を必要としている可能性がある企業への新規開拓を支援します。
人型ロボットに限らず、
「成長している市場は分かった。でも、その市場のどの企業へ営業すればよいか分からない」
という場合には、市場から部品・発注企業まで掘り下げて営業先を探すことが重要です。
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