製造業に役立つコンテンツ特集 全固体電池とは?特徴や最新技術を解説!

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近年、スマートフォンの普及や電気自動車の開発に伴い、電池技術は飛躍的に進化してきました。しかし、従来のリチウムイオン電池には、発火リスクや充電速度の遅さなどの課題も存在します。

そこで、次世代の電池として注目されているのが「全固体電池」です。従来のリチウムイオン電池とは異なり、電解質が液体ではなく固体であるため、安全性の向上や急速充電が可能となる電池です。

次世代の電池として多くの期待を集めている全固体電池は、私たちの生活をどのように変えてくれるのでしょうか?

本記事では、全固体電池の特徴やメリット・デメリット、開発状況について詳しく解説します。

全固体電池とは?特徴や材料、リチウムイオン電池との違いについて

全固定電池の特徴とメリット

電池技術は日々進化しており、その中でも「全固体電池」は次世代の電池として多くの注目を集めています。しかし、全固体電池が一体どのようなものか、なぜこれほどまでに注目されているのかについて、詳しく知っている方は少ないのではないでしょうか。

ここでは、全固体電池の基本的な特徴や材料、そしてリチウムイオン電池との違いについてわかりやすく解説します。

全固体電池の仕組み

全固体電池とは、従来のリチウムイオン電池とは異なり、電解質(電気を通すことができる物)が液体ではなく固体である新しいタイプの電池のことを言います。全固体電池は、正極、負極、固体電解質という三つの部分からできています。

出展:用語解説|一般社団法人電気学会

従来のリチウムイオン電池では、液体電解質が使われており、その中でイオン(電気を持った小さな粒子)が移動していました。しかし全固体電池では、充電するときには電池にイオンが流れ込み、正極から固体電解質を通って負極に移動し電気エネルギーが蓄えられます。

放電するときには、蓄えたエネルギーが外に出ていき、イオンが負極から正極に戻ります。これにより、私たちの電気自動車やスマートフォンが動くのです。

また、固体電解質は液体電解質とは違い、固体なので漏れたり、燃えたりするリスクが低く、安全性が高い特徴を持っています。さらに、温度の変化にも強く、寒い場所でも暑い場所でもしっかり働くというメリットもあります。

全固体電池の特徴

全固体電池は、従来のリチウムイオン電池と比べて以下の3つの大きな特徴があります。

①高いエネルギー密度

全固体電池は、電極材料に従来のリチウムイオン電池では使用できない高容量の材料を使用できるため、エネルギー密度を向上させることができます。つまり、同じ体積の電池でより多くの電力を蓄えることができるのです。そのため、電気自動車で活用すれば、今までのEVよりもより長く運転することが可能になります。

②安定した化学反応で、高い安全性

リチウムイオン電池は、電解質が液体であるため、発火リスクがありました。その一方で、全固体電池は電解質が固体なので、発火リスクが大幅に低くなります。そのため、電気自動車などの大容量電池を搭載する際に大きなメリットとなります。

③イオン伝導性が高く急速充電が可能

全固体電池は、電解質の抵抗が低いため、リチウムイオン電池よりも急速充電が可能になります。電気自動車の充電時間を短縮し、利便性を向上させることができます。

このような特徴から全固体電池は、次世代電池として注目されています。

リチウムイオン電池と全固体電池との違い​

事業類型 リチウムイオン電池 全個体電池
劣化 劣化しやすい。液体電解質内での副反応が劣化を引き起こす 劣化しにくい。副反応が起こりにくい固体電解質を使用
温度耐性 高湿で劣化し、低温では電圧低下。運用に制限がある 高湿・低温でも安定した性能を維持。高速充電が可能
安全性 液漏れや発火、破裂のリスクがある 危険性が低い。液漏れや発火の心配がない
設計の自由度 構造を強化する必要があり、設計の自由度が低い 設計自由度が高い。多様な構造や形状が可能


リチウムイオン電池と全固体電池は、どちらも私たちの生活に欠かせない電池ですが、その仕組みや材料には大きな違いがあります。

リチウムイオン電池は、スマートフォンやノートパソコンなどで一般的に使われている電池です。

正極にはコバルト酸リチウム(LiCoO₂)やニッケルマンガンコバルト(NMC)などといった複合酸化物が使用されています。これらは高いエネルギー密度と安定性を持ちますが、コバルト資源の枯渇や高価格化が課題となっています。また上記でもお伝えした通り、電解質が液体であるために、液漏れによって火災のリスクが伴います。

一方、全固体電池の正極には液体リチウムイオン電池と同様にコバルト酸リチウムやNMCが使われていますが、電解質にはガラスやセラミック、ポリマーといった固体材料が使われます。これら固体電解質は化学的に安定しており、高温や低温での性能が優れています。

また、イオンの反応速度を速めるために、従来のリチウムイオン電池では使用できなかった金属系材料(リチウム、マグネシウムなど)の研究開発も進められています。固体電解質と新しい負極材料の組み合わせにより、より多くのエネルギーを蓄えることができるようになります。

全固体電池の実用化の状況

全固体電池は、その優れた特性から次世代のエネルギー技術として期待されていますが、実用化に向けた課題も多くあります。現代の技術水準では、全固体電池の製造には難しさがあり、それが普及の妨げとなっています。

ここでは、全固体電池の実用化に向けた現在の状況について詳しく解説します。

全固体電池製造の難しさ

既存のリチウムイオン電池は液体電解質を使用しており、これがイオンの移動を容易にする役割を果たしています。しかし、全固体電池では電解質が固体であるため、イオンがスムーズに移動するための工夫が必要になります。

全固体電池の固体電解質内では、イオンの移動を円滑にするために、固体電解質を高圧で圧縮し、内部の隙間を減らすプレス加工が行われます。しかし、この工程は非常に難しく、高度な技術を要します。

また、電極と固体電解質の界面の密着性を高めるために、特定の加工方法や材料の選定が必要です。固体と固体を常に密着させることは容易ではなく、この密着性が不十分だと、イオンの移動が妨げられ、電池の性能が低下してしまうのです。

特に硫化物系全固体電池の場合、電池の性能を維持するためには、強い力で電池を締め付けて固定する必要があります。電極と電解質の密着性を保つために大事な工程ではありますが、そのためには重い部品を使用しなければならず、軽量化が課題となります。さらに、この強い締め付けが長期間にわたって維持される必要があり、そのための技術的な解決策が求められています。

このように全固体電池の実用化には、製造技術の向上が不可欠であり、多くの研究者や企業がこれらの課題に取り組んでおり、日々新しい技術や材料が開発されています。

自動車メーカーの取り組み

全固体電池の実用化に向けた取り組みは、自動車メーカーによって積極的に進められています。ここでは、主要な自動車メーカーであるトヨタ、日産、ホンダの取り組みについて詳しく見ていきましょう。

■トヨタ自動車の取り組み

トヨタ自動車は、全固体電池の開発において先駆者的な存在です。2006年から開発を開始し、2023年10月には出光興産との協業を発表しました。両社は、2027年から2028年の間に全固体電池を搭載した電気自動車(EV)の本格的な量産と実用化を目指しています。さらに、トヨタは全固体電池をハイブリッド車にも採用する方針です。

■日産自動車の取り組み

日産自動車もまた、全固体電池の開発に積極的に取り組んでいます。2018年から材料研究を開始し、2021年には長期ビジョン「Ambition 2030」を発表しました。このビジョンの中で、日産は自社開発による全固体電池の製品化を明言し、2024年度までに横浜工場内にパイロットラインを設置する計画を立てています。そして、2028年度までに全固体電池を搭載したEVの市場投入を目指しています。

■ホンダの取り組み

ホンダもまた、全固体電池の開発に注力しています。ホンダはカーボンニュートラル社会の実現を目指し、独自に全固体電池の研究開発を進めています。ホンダのアプローチは、単に研究室レベルでの技術開発に留まらず、自動車メーカーとして実際に車載することで優れた性能のEVを手頃な価格で提供できるよう、量産を視野に入れた開発を行っています。

このように、各自動車メーカーは全固体電池の実用化に向けた取り組みを進めており、その成果が期待されています。技術の進展により、全固体電池が普及し、私たちの生活がさらに便利で持続可能なものとなる日が近づいています。

参考:日産・ホンダ・トヨタ…夢の電池「全固体」開発にアクセル|ニュースイッチ

量産技術の確立へ

全固体電池の量産化に向けた技術開発は、まだ多くの課題を抱えています。しかし、全固体電池を実際に商品化するためには、自動車などの用途に適した電池サイズやコストでの量産が求められます。

全固体電池の製造には固体電解質を高圧で圧縮し、緻密な構造を形成するプレス製法が用いられます。電池の性能に大きな影響を与えるものですが、高圧を維持するための装置や材料が必要となり、コスト面での課題も生じます。

これらの課題を克服するためには、一定サイズの電池を用いた実験や試作を繰り返し、材料仕様と製法仕様の両立を図る研究が進められています。

全固体電池の量産技術が確立されれば、安全で高性能な電池が広く普及し、電気自動車や家庭用蓄電池など、さまざまな分野での活用が期待されています。

まとめ

本記事では、全固体電池について、今後の可能性と、現時点における課題について詳しくお伝えしました。

従来のリチウムイオン電池の課題を克服し、安全性と性能を飛躍的に向上させる全固体電池は、次世代電池として大きな期待を集めています。実用化に向けた課題は多いものの、その優れた特性により、私たちの生活に大きな変革をもたらす可能性があります。

日々技術開発が進められており、全固体電池の実用化に向けた大きな期待が寄せられています。
様々な加工分野の技術が必要なことや、普及につれて必要になるインフラ設備を考慮すれば、製造事業者が持つノウハウを活かせば、市場に参入できる可能性が高い分野であると考えられます。

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