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自動車の電動化が進む中、次世代電池として注目を集めているのが「全固体電池」です。従来のリチウムイオン電池よりも高い安全性とエネルギー密度を持ち、EVの普及を加速させると期待されています。
しかし、全固体電池は研究開発段階の技術であり、実用化には多くの課題が残されています。そこで今回は、全固体電池の開発に積極的に取り組んでいるメーカー10社をご紹介します。
各メーカーの技術概要や開発状況、今後の展望などを詳しく解説していきますので、ぜひ最後までご覧ください。
全固体電池とは?
全固体電池は、従来のリチウムイオン電池の液体電解質を固体電解質に置き換えた次世代電池です。固体電解質を活用することで、以下のようなメリットを発揮します。
- 液体電解質を使用しないため液漏れによる発火や爆発のリスクが大幅に低減できる
- 体積あたりのエネルギー密度が高いためより長距離走行可能なEVを実現できる
- イオン伝導度が高いため充電時間を短縮できる
これらのメリットから、全固体電池は次世代EVのテクノロジーとして期待されています。
全固体電池の開発は世界中で活発に進んでおり、すでに試作品段階の電池が発表されています。しかし、実用化には課題も多く、量産化までは数年かかる見込みです。
主な課題としては、以下のようなものが挙げられます。
- 性能が高く量産しやすい固体電解質の開発
- 従来のリチウムイオン電池とは異なる製造技術の確立
- コスト低減
各メーカーはこれらの課題を克服するために、研究開発を進めています。
こちらの記事では、全固体電池についてより詳しく解説しています。
全固体電池のメーカー10選
全固体電池は、今後のEVの普及を加速させるキー技術と目されています。今後、研究開発が進み、課題が克服されれば、社会に大きな変革をもたらす可能性があります。
ここでは、全固体電池の開発に取り組んでいるメーカー10社について詳しく解説していきます。
各メーカーの取り組みから、全固体電池の将来性について考える材料にしてみてください。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車は、カーボンニュートラル実現に向け、バッテリー式電気自動車(BEV)開発に注力しています。BEVの進化を支える次世代電池として、2006年から全固体電池の研究開発に積極的に取り組んでいます。
また2023年10月には出光興産と協業を開始し、量産化に向けて本格始動しました。現在は固体電解質の量産技術開発や生産性向上、サプライチェーン構築などが進められています。
トヨタ自動車は全固体電池の技術を用いたBEVの普及に向けて社内外と協調しつつ、技術開発に取り組んでいます。
参考:トヨタ自動車株式会社『出光とトヨタ、バッテリーEV用全固体電池の量産実現に向けた協業を開始』
こちらの記事ではより詳しくトヨタ自動車の全固体電池への取り組みに焦点を当てて解説しています。
日産自動車株式会社
日産自動車は、2028年までのEV市場投入を目指し、全固体電池の開発に力を入れています。日産自動車の開発する全固体電池は、従来のリチウムイオン電池の2倍のエネルギー密度と3分の1の充電時間を実現し、航続距離と利便性を大幅に向上させることが目標です。
コンパクトで大容量なバッテリー技術は、車両設計の自由度を高め、様々なニーズに合わせたEVの開発を可能にできると公表しています。2022年4月には試作ラインを公開し、2024年4月には横浜工場にパイロット生産ラインを建設。また、2024年度中の完成を目指し、2026年度には試作車の公道走行試験を開始する予定となっています。
参考:日産自動車株式会社『飛躍的に電気自動車の性能を向上させる高度な電池技術』
本田技研工業株式会社
本田技研工業株式会社(Honda)は、2050年のカーボンニュートラル実現を目指し、EVの普及に力を入れています。しかし、現行のEVは航続距離や価格の面で課題があり、普及が限定されています。
そこで、これらの課題の克服と、量産を見据えた全固体電池の技術開発を進め、高性能なEVを低価格で提供することを目指しています。
参考:本田技研工業『カーボンニュートラル社会に向けて次世代電池がEVを変える!全固体電池の研究』
出光興産株式会社
出光興産は、全固体電池の普及・拡大に向け、固体電解質の開発と量産技術の確立に力を入れています。2021年稼働開始の小型実証設備に加え、2023年7月から稼働を開始した小型実証設備第2プラントで、自動車・電池メーカーへ固体電解質を供給しています。
さらに、自動車・電池メーカーのニーズを把握しながら開発を進めることで、適切な材料仕様の提供を実現しています。また、小型実証設備での実績を基に、大型パイロット装置での量産技術確立と事業化を目指しています。加えて、材料メーカーとの共同開発にも取り組み、新しい高性能材料の開発にも挑戦しています。
参考:出光興産株式会社『次世代電池(全固体電池)向け固体電解質 供給能力の増強決定』
パナソニックホールディングス株式会社
パナソニックホールディングスでは、従来のリチウムイオン電池を超える高出力、短時間充電、安全性を実現する全固体電池を開発しています。
この電池は、わずか3分で充電率10%から80%まで到達し、1万〜10万回の充放電サイクル寿命を実現しています。2020年代後半の実用化を目指しており、様々な用途での活用が期待されています。
パナソニック独自の固体電解質と高速イオン伝導度評価手法により、従来の電池では難しかった短時間充電を実現しました。特に、航続距離よりも機動性を重視するドローンでの使用に大きな可能性を秘めています。
パナソニックホールディングス『研究開発の方向性』
京セラ株式会社
京セラは、IoT機器をはじめとした幅広い用途で求められる小型二次電池向けに、セラミックパッケージを用いた高耐久性・高信頼性ソリューションを提供しています。
従来のリチウムイオン電池に加え、次世代電池として注目される全固体電池にも、京セラ独自のセラミックパッケージが有効であるとしています。固体電解質の劣化を防ぎ、小型化やリフロー実装を実現することで、全固体電池の可能性をさらに広げていきます。
参考:京セラ株式会社『二次電池の信頼性を向上表面実装型セラミックパッケージ(外装材)のご提案』
住友電気工業株式会社
住友電工は、これまで培ってきた独自の技術と一貫生産体制を活かし、高品質な車載用タブリード(パウチ型のリード線)を市場に供給してきました。この強みを活かし、全固体電池の開発においても、自動車メーカーと直接コミュニケーションを取りながら、ニーズに合致した製品の開発を進めています。
参考:住友電気工業株式会社『自動車電動化のキーデバイス リチウムイオン電池とタブリード』
株式会社村田製作所
村田製作所は、業界最高水準の電池容量を持つ全固体電池を開発しました。従来のリチウムイオン電池よりも安全性が高く、小型化と高エネルギー密度の両立を実現しています。
期待される用途として、スマートウォッチやワイヤレスイヤホン、センサー、通信機器などで、小型化、長時間の駆動、安全性向上に貢献します。
村田製作所の全固体電池は、将来的にウェアラブル機器(次世代端末)などにも利用できるように開発が進められています。
参考:株式会社村田製作所『業界最高水準の容量を持つ全固体電池(二次電池)を開発』
株式会社オハラ
オハラは、高いリチウムイオン伝導性を誇るガラスセラミックス材料「LICGC™PW-01」を開発しました。この素材は、次世代リチウムイオン電池や環境技術の発展に貢献することが期待されています。
従来の固体電解質材料よりも高いリチウムイオン伝導性を有し、電池の性能向上に大きく貢献します。また酸化物系固体電解質であるため、大気中で取り扱いが可能で、従来のリチウムイオン電池よりも高い安全性を実現します。さらに製造工程において溶媒を使用せず、環境負荷の低減に貢
献します。
高速充電、長寿命、安全性向上を実現した次世代リチウムイオン電池として、高精度で小型なCO₂センサーの開発や高速充電・高出力・長寿命を実現した次世代キャパシタの開発に貢献し、EVや産業用機器の動力源として期待されています。
参考:株式会社オハラ『LICGC™PW-01』
日立造船株式会社
日立造船は、全固体リチウムイオン電池「AS-LiB®」を開発しました。従来の電池とは異なり、液体電解質を使用せず、安全性の高い固体素材のみで構成されています。
-40℃〜100℃という広い温度範囲で使用可能で、宇宙空間などの過酷な環境下での利用にも適しているとして注目されています。
JAXAと共同でAS-LiB®を国際宇宙ステーション(ISS)に搭載し、世界で初めて宇宙環境での充放電に成功しました。これは、AS-LiB®の高い安全性と信頼性を証明する大きな成果となっています。
今後の展望として、AS-LiB®の宇宙開発への応用だけでなく、自動車や産業機器など様々な分野での実用化に向けて研究開発が進められています。次世代電池として大きな可能性を秘めており、私たちの生活を大きく変革する技術となるでしょう。
参考:日立造船株式会社『全固体リチウムイオン電池』
まとめ
本記事では、全固体電池の10のメーカーの取り組みについて詳しくお伝えしました。
各社は、それぞれ異なる強みや開発状況、期待される用途を持っています。
全固体電池は、従来のリチウムイオン電池よりも安全性が高く、エネルギー密度も高いため、次世代EVやIoTデバイスの電源として期待されています。
各社の取り組みで全固体電池を用いたEVや次世代デバイスの普及が実現するのはそう遠い未来ではないでしょう。